令和2年度「歯の作文」講評

2021年02月19日
千代田区教育会国語部長
渡辺 裕之(千代田区立和泉小学校校長)
 
■はじめに
 今年度は、思いもよらぬコロナ禍により、臨時休校でのスタートとなり、学校歯科医の先生方におかれましては、歯科健診の延期や感染リスクの回避など様々なご配慮をいただいていることとお察しいたします。また、本事業を主催いただいている東京都学校歯科医会の皆様におかれましては、学校関係の様々な取組が中止となる中、本事業の趣旨を踏まえ継続実施の判断をなされたことに、学校現場を預かるものとして大変ありがたく思っております。
 一方、毎年、各学校で行われている保健指導への影響は計り知れず、保健・健康委員会などでの活動・取組も制限がかかっているとの報告があがっております。したがってこの「歯の作文」事業についても、例年に比べて少ない応募となりました。ただ、この状況下であっても本事業に賛同し、児童生徒への働きかけを継続していただきました養護の先生、ご担当の先生方がいらっしゃることは大変ありがたいことです。この場をお借りして厚くお礼申し上げます。
 
令和2年度歯の作文応募状況
  2年度 元年度
小学校 62 280
中学校 51 174
合計 113 454
 
■講評
 毎回のことですが、子どもたちの作文には一人一人の物語があり、読み進める中でついつい引き込まれ、自らの歯の健康状態にも思いを寄せつつ、鏡に向かわねばと考えている自分に気づくこともしばしばありました。
 今回、応募総数が少なかったものの、少数精鋭の作品ぞろいで難しい審査を余儀なくされました。また、「歯の作文」を臨時休校中の家庭学習の課題としたことが影響してか、同じ学校からの応募が集中していたことにより、当該の学校の保健指導の内容が類似していることや、担当する先生方の作文指導の考え方が影響したのか、特徴が見出しにくかったのもその要因です。
 そんな中、例年どおり、自らの幼少期の思い出や高齢の家族とのやりとり、むし歯や矯正の経験など様々な独自のエピソードに胸を打たれましたが、今回、小中学校それぞれに特徴的であったのが、新型コロナウィルスを関連づけて展開する作品が多く見られたということです。口からのウィルス感染予防との関係から、口腔内のケアの重要性を訴えるなど、今までにない主張も見られ、関心をもって読んでいただけるものと思います。一方、矯正に対する諸外国との考え方の違いとともに、文化比較という視点を踏まえて論じた作品は目新しく、大変興味深く読ませてもらい印象に残っています。
 来年度に向けて、ご指導にあたる小中学校の先生方へのお願いです。応募作品の字数(原稿用紙の枚数)に規定はないはずですが、提出にあたり枚数の制限をして仕上げることを条件としていることがあるとすると、せっかくの終末のまとめに十分なスペースが残されないために、思いを伝えきれないようなことになるかもしれません。逆に書きたい思いが多岐にわたり、知らず知らずのうちに字数が増えてしまうような作文も焦点がぼけてしまいもったいないです。しっかりと、全体のテーマを一つ定め、取材したことの中から論の展開に必要なことを精査して組み込み、自分の主張が伝わりやすい構成で作品を仕上げるようご指導いただければ幸いです。
 

■小学校の部
口腔ケアは命を守るケア 今井 優花さん
 口の中の細菌が様々な病気を引き起こす要因であることをタイトルの文言に込めて進言していま
す。また、歯が健康維持のために重要な役割があることから、「歯のケアは人生の彩りを守るケ
ア」であるとの論の展開も秀逸です。結びの防災セットのくだりは誰もが参考にしたいことです。

自分の歯で食べる 堀内 翼さん
 入れ歯をはずした曾祖母の表情を見て愕然とする導入から、歯科医院での指導を受けた成果へとテンポよく書き進めています。治療の前に予防が大切であり、年齢を重ねても自分の歯でおいしいものを食べたいと結論づける展開など、構成がよく練られた作文に仕上げています。

スポーツは歯が命 岩井 琢真さん
 スポーツと歯の関係に興味をもち、自らのフットサルの選手として活躍するという夢と連動させながら、スポーツにおける歯の役割について、モチベーションを高くもって調べを進めまとめました。競技スポーツを目指している子どもたちには、是非、読んでほしい作品です。

君達はなぜ歯をみがくのか 武藤 海さん
 タイトルでの強い呼びかけから、自ら歯をみがく理由を将来宇宙飛行士になるという夢を実現させるためと紹介し、歯みがきの重要性を説得力ある表現で書かれています。「全国の小学生に歯みがきという最強の武器で戦いましょう」と、強く呼びかけている結びはインパクトがあります。

祖母の歯 酒井 徹平さん
 「八○二○運動」を楽々と達成しそうな同居の祖母のエピソードが綴られ、読んでいて心が温まります。祖母の小魚を摂る習慣の紹介からカルシウムの有効性などを紹介し、結びに祖母との会話を再度組み入れ、自らの決意を述べるという構成も大変すばらしいです。

 

■中学校の部
むし歯と感染症 高林 花凜さん
 外出自粛中のアンケートから、今回の感染症が食習慣を変化させ口内環境に影響を与えたことにふれ論を展開しています。幼少期のミュータンス菌への感染をケアしてくれた家族の対応を、新型コロナウィルスの感染防止とむし歯予防対策に関連付けて見事にまとめています。

歯科矯正の普及 藤崎 紗叶さん
 自らの歯科矯正に至った経緯と努力して得た成功体験を踏まえ、日本人の歯並びへの意識や外国人がも歯並びに関する印象などの国際比較などから論を展開しています。子どもの頃から始めていく歯科矯正の利点などにもふれながら、積極的に普及を促しています。

歯の健康について 遠藤 そらさん
 幼少期や家族の歯の健康に関わる事例を取り上げつつ、阪神淡路大震災のときに、水の使用が制限された影響で誤嚥性肺炎がはやったことにふれ、口腔内の清潔を保つことの大切さに言及しています。「人生100年時代」との表現を通して、歯が健康に及ぼす影響を力説しています。

歯があるって幸せなんだ 谷口 夏規さん
 転倒による衝撃で歯が粉々になった経験から、折れてなくなってむき出しになった状態で食事をするつらさなど、生の声が聞こえてくるようです。タイトルにあるように、食べて「おいしい」と感じることがいかに幸せなことなのかを訴えるなど、自らの主張に力強さを感じます。

「健康への第一歩」籏野 真友香さん
 当たり前である歯みがきの重要性を、手軽にできるからこそ習慣化してほしい健康法としていくことや、ウィルスへの感染を予防するための有力な手段であることにふれながら力強く論じています。歯みがきと感染症予防を関連付けた明解な健康への努力についての主張は説得力があります。