令和元年度「歯の作文」講評

2020年02月20日
千代田区教育会国語部長
渡辺 裕之(千代田区立和泉小学校校長)
 
◆はじめに
日頃より、児童・生徒の歯の健康維持のために学校歯科医として尽力されている先生方に敬意を表するとともに改めて感謝申し上げる次第です。また、東京都学校歯科医会が主催するこの「歯の作文」事業を通じて、児童・生徒が自身の歯の健康について考え作文に表現し発表することは、各校の学校保健の充実に寄与する取組となるもので、教育現場をあずかる者としてこの場を借りて厚くお礼申し上げます。引き続き、本事業が成長著しい小中学生にとって、自分の将来を見据えて歯の健康について深く考える機会となることを期待します
 
令和元年度歯の作文応募状況
  元年度 30年度
小学校 280 290
中学校 174 171
合計 454 461
 
◆講評
今回も個人のエピソードを元にした思いや願いを受け止めながら読ませていただきました。お役目としてお引き受けしているところですが、小中学生の一つ一つの作品とじっくり向き合えることに幸せを感じつつ審査をすすめてまいりました。
応募された作文は、歯科医での苦い経験や委員会活動での取組をきかっけとしてまとめている他、歯の健康について調べた上で、考え方・生き方に結び付けようという意欲が随所に読み取れました。とりわけスマートフォンなどの普及から、検索すれば様々な専門的な情報がとれることから、中学生の作文に特にそのような傾向が見られました。それでも、自分の経験や感じたことを、オリジナルの表現で訴えていく作品は、どれも読んでいてどんどん引き込まれていきます。中でも家族との関わりや祖父母との会話等をきっかけとして、これからの長い人生…というスパンでとらえ、むし歯や疾病のない歯の維持と幸せに生きていくための「食」に注目している記述は強く印象に残りました。
 
◆小学校の部
早寝早起き朝ごはん、よくかみ歯磨き忘れずに! 関 小百合さん
これからの人生を歩む上で大切な自分の歯を守っていくためには、よく噛むとともに、歯を磨くことを大切にしたいという結論に導くために、タイトルの文言を導入として詳しく論じています。「理想の朝が出来上がる」との特徴的な表現を織り込み、構成を工夫してまとめている秀作です。

笑顔は歯から 野上 咲さん
兄の笑顔に惹かれて始めた矯正の苦労を経て、健康な歯とともに笑顔に自信がついたことを家族への感謝とともに綴っています。終末に健全な歯が心身の健康に大きく影響することを主張し、誰もが健康で笑顔がすてきな社会にするため、歯みがきが大切であることを強調しています。

健康な歯は財産 武藤 有后さん
帰省先で祖母から食事中に「丈夫ないい歯の音がしている」とほめられたことを書き出しとして、両親と共に家族ぐるみで歯の健康に気をつけているということが印象に残りました。「むし歯のない健康な歯は財産」という祖母の言葉を胸に歯みがきを丁寧にしたいと上手にまとめています。

「口の中の小悪魔さん」 宮嶋 香耶さん
歯と歯の間のみがき残しがむし歯の原因になることを知り、密かに潜んでいる恐ろしい「小悪魔!」とユーモラスに表現して文章をまとめています。終末には、ていねいに歯みがきをしてきれいな歯にしていくとの決意とともに、一生小悪魔と戦うことを誓っている記述もユニークです。

噛むことの大切さ 岡本 釉奈さん
生命維持に欠かせない食物摂取のために必要な「噛むこと」の意義や必要性を中心に置き、論じているのが独創的です。また、噛むことの八大効用としての合言葉「ひみこのはがい.ぜ」や8020運動などの啓発活動を紹介し、「健康な歯」の重要性について幅広く考えています。

歯とともに未来を生きる 渡辺 大士さん
歯みがきの大切さや食生活への注意喚起とともに、スウェーデン人の歯の健康状態が良いことを引用して、定期健診やクリーニングのために歯科医を利用する必要性を訴えています。また、「歯とともに自分の未来を生きていけるようにしたい」との力強い発信は心を打たれます。

この歯と共に 増村 涼子さん
自分の歯で好きなものを楽しく食べることや、家族や友人とコミュニケーションをとるために、歯が健康であり続けることの大切さを、他界した祖父の生前の様子から思い起こして記述し上手にまとめています。「歯は体の健康の入り口でもある」との表現は独創性があります。

むし歯大国 松元 優衣さん
今でこそ「歯科先進国」と呼ばれているスウェーデンも、過去においては子どものむし歯が多い国だったことなど調べたことを丁寧に紹介しています。「むし歯大国と言われている日本も同じ道を歩み、むし歯ゼロの国にしましょう」というメッセージはインパクトがあります。

目指せむし歯ゼロ 小山 竣平さん
永久歯への生え変わりの遅さから、歯科医の指導を受けて自分の歯を大切にするようになったことが5年生らしく素朴な表現で綴られています。曾祖父が自分の歯で好きなものをおいしく食べていたことで長生きできたことに触れ、自分もそうありたいとの強い願いで結んでいます。

歯は私のパートナー 久保田 奈緒さん
忙しい朝の時間の歯みがきや歯科医への通院など誰もが背を向けてしまうことに、葛藤しながらも自分の歯を守るという意識をもって努力した軌跡を描写しています。「あきらめずに努力すれば私の歯も応えてくれる、歯は一緒に過ごしてくれるパートナー」との表現は大変優れています。

 
◆中学校の部
キレイで丈夫な歯 田中 彩音さん
「食生活」と「日々の積み重ね」の視点で大切な歯を守るために気を付けるべきことをまとめています。長期の入院生活で歯みがきができなかった期間のつらさとともにかむことの大切さについて身をもって経験したことを訴え、丈夫な歯を守り笑顔で人に接したいと結んでいます。

歯みがき欲 小竹 優希さん
実際にあるはずもないと言い切る「歯みがき欲」なるものを、健康寿命を延ばし、8020達成を目指すために、楽しく歯みがきを続ける秘訣として独自の捉え方で論じています。歯みがきをしないと陥ってしまうことについてユニークにまとめつつ、歯を大切にする決意を表現しています。

歯の健康 壁田 夏稀さん
85歳と90歳の祖父母が固い食べ物も自分の歯で美味しいと言って味わっていることを、「自分にとっても幸せだ」と言い切っているところが素晴らしいです。乳児期に甘いものを食べさせなかった両親の愛情にもふれ、これからも美味しいものを自分の歯で楽しみたいと結んでいます。

「かむ力」の意味 岡田 幸大さん
保健委員会での取組から歯の健康とスポーツに注目し、野球ボールの遠投の実験結果をもとに健康な歯が大切なことを論じています。瞬間の歯のかみしめ方の数値を分析し、スポーツをする上で歯の健康を保つことがいかに大切か、日々実践していくべきとの主張は説得力があります。

健康な歯は一生の宝物 木村 妃菜さん
固い野菜を美味しそうに食べながら、「自分の歯で食べるのが一番うまい!」との祖父の口ぐせから、若いうちから歯を大切にするべきとの結論に導いています。人生百年時代を迎える今、元気に楽しく、一生健康な歯でいられるように歯に大切なことを習慣化したい…との表現も秀逸です。