平成30年度「歯の作文」講評

2019年02月10日
千代田区教育会国語部長
渡辺 裕之(千代田区立和泉小学校校長)
 
◆はじめに
先ず、長きにわたり児童・生徒の歯の健康のために尽力されている東京都学校歯科医会の皆様に敬意を表するととともに改めて感謝申し上げます。また、この「歯の作文」の事業は、児童・生徒が自分の歯の健康や歯みがきの重要性などに視点をあて、自分の考えを作文に表現することで、生涯、自分の歯を大切にしていこうという固い意志を育む健康教育という視点からもたいへん有意義な取組です。
作文の応募数に若干の減少傾向が見られるようですが、学校を預かる立場として、これからも本事業への啓発に努めてまいります。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
 
平成30年度歯の作文応募状況
  30年度 29年度
小学校 290 307
中学校 171 178
合計 461 485
 
◆「歯の作文」の審査に参加して
幼少期から「歯みがきの習慣」を身に付けるとともに、「正しい歯のみがき方」を覚え、毎食後、ブラッシングを続けることは、多くの学校歯科医の先生方の願いであると推察します。また、「8020運動」の啓発に向け、小中学校の教育現場から発信していくという理念についても大いに賛同いたします。ここに集められた作文は、家族との関わりなどから自分の過去を振り返りつつも、自分の歯、自分の健康のために今後どうあるべきか、将来を展望してまとめていくという手法が中心ですが、独創的な表現も多く見られ、内容は大変充実しており本事業の趣旨を理解した秀作ぞろいであったと捉えています。読者をひきつける一つ一つの作品は、知らずうちに、“鏡”に向かわずにはいられなくなるほど、書いている子どもたちのストーリーに引き込まれていきます。ここに掲載される作品をすべての小中学校の児童・生徒が手に取って読んでもらうことを願わずにはいられません。応募にあたって、養護の先生や担任・教科の先生のご苦労も多かったことと推察いたします。この場を借りて厚くお礼申し上げます。
 
◆小学校の部
「小さな歯がつくる輝く笑顔」 中村 紋百佳 さん
歯の存在を「小さいもの」としながら、その存在感の大きさや人の個性の象徴としてとらえた視点は独創性があります。自身の矯正治療の経験で顔の表情が変わったことを認識しつつ、歯並びの良さだけが歯の美しさではないこと、表情を豊かにする「パーツ」との表現は個性的です。
「歯の大切さとその美しさの秘訣」 竹田 亜弥 さん
家族やペットがむし歯になったことを振り返りつつ、自ら白い歯でいられるよう歯を大切にしていきたいという決意を述べています。四字熟語を引用しながら美しい歯でいられることを目指し、心や体もまっすぐ澄んだきれいなものとしていきたいと結んでいるところが特徴的です。
「胃を助けるヒーロー」 高山 響子 さん
自らの経験を踏まえ、噛むことが唾液の分泌をうながし、胃に負担をかけないことにつながることから、「歯」の大切さを分かりやすくまとめています。結びに、永久歯を大切にしていくという誓いを立てることと合わせて8020運動への積極的な協力を宣言しているまとめ方も見事です。
「もうむし歯はつくらない」 白石 こゆき さん
幼少の頃の入れ歯を入れた祖母との会話が、現在の歯みがきの習慣が定着していることにつながっていることを素朴に表現しています。歯みがきのポイントを分かりやすくまとめ、80歳まで20本を残すことを目標に、歯みがきを続けたいとの決意が感じられます。
「歯の健康のために」 井上 聡美 さん
むし歯になって痛い思いをしたことをきっかけに、みがき残しのないよう努力していることが伝わります。歯みがきの良しあしが歯肉炎に影響することを調べ、歯の磨き方や唾液の殺菌力、食生活との関連などにも視点を当て「歯の健康のために」幅広く考えて主張しています。
「きれいな歯をつくる」 坂本 凪帆 さん
6歳臼歯がなかなか生えなかったときに矯正をしたこと、その時の家族の思いや装置を取り付けた時の苦い経験が巧みに表現されています。自分の歯を清潔に保ち、健康な歯でものを食べていきたい、いつまでもきれいな歯を見せて笑っていたいという主張が明確に表現されています。
「おばあちゃんになっても」 田村 紬 さん
祖母のきれいな歯を見て笑顔が輝いていると感じたことなど、幼少期の思い出とともに家族との関わりを散りばめながら、自分の歯がきれいに維持できていることを上手に記述しています。思いがけず小さい頃に使っていた歯ブラシを見て、自らの成長を感じるくだりもユニークです。
「健康な歯と脳」 豊吉 凪乃 さん
母親から朝食の時によく噛んで食べると、学校の授業に集中できると聞かされたことをきっかけに噛むことと脳のはたらきについて調べ、そのことを分かりやすく説明しています。噛むことの刺激が脳を活性化させることだけでなく心の安定につながるというまとめ方は他に例を見ません。
「未来のぼくの歯」 尾原 蓮 さん
健康委員会委員長として歯みがきの大切さを全校に伝える中で、一生を共にする歯を本気で守っていこうと決意するまでの過程をまとめています。むし歯だらけの乳歯が永久歯に生え変わり、二度とリセットできないチャンスと思い、歯みがきを続けようという主張は説得力があります。
「むし歯ゼロ」は私の誇り 古澤 祐果 さん
朝起きるのがつらくても、毎日歯みがきを続けてきたことを通して、磨くのが当たり前という感覚が育ち、今は「むし歯ゼロ」でいられることを誇りとしていると表現しています。健康面の不安がある中でも、歯の健康を絶対に守り抜くという決意が込められた作文です。
 
◆中学校の部
「歯に対する感謝の気持ち」 柿崎 良太 さん
感謝を込めて「歯みがき」をしている理由を、疾病予防や脳を活性化させるために役立っていることなどを挙げ、そんな自分の歯を健康な状態でしっかりと守っていかなければと力説しています。健康な歯が「宝物」であり楽しい毎日をプレゼントしてくれるという表現も独創的です。
「歯とアレルギーの関係」 小関 梨沙 さん
自身の食物アレルギーが解消されたことをきっかけとして、よく噛むことが食物を消化しやすくするだけでなく免疫力を高めることにつながることを論じています。そのことを受けて、噛むことの大切さ、病気の予防においても「健康な歯」が大切であるという結論に導く展開は見事です。
「歯と口の安全を守る人」 田村 琉依 さん
前段に歯科医院に対する負の印象が払拭されていく過程を、自らの初めての歯科診療の経験を踏まえて述べるとともに、後段で、歯科医院が単に治療や検査だけでなく、健康な歯のサポートをする大切な役割を果たし、「私たちの味方」と結論づける展開は説得力があります。
「自分に今できることは」 杉本 姫麗 さん
抜けた歯がむし歯であることに気付いたことから、一念発起して歯みがきへの意識が変容していく経験を分かりやすく展開しています。それを受けて、将来、自分の歯で健康に過ごし後悔することのないように、歯みがきの必要性を読者に強く伝えようという意思が伝わってきます。
「茜色にそまった空」 山尾 海 さん
曾祖父が飼っていた猫の「空(ソラ)」が歯の病気で亡くなったことを書き出しとし、入院した曾祖父との会話を再現しながら、「8020運動」、歯みがきの大切さや食べることが強い体をつくることを主張しています。猫に関わる描写とともにぐんぐん惹きこまれる小説仕立ての秀作です。